地域の不動産屋さん、不動産情報サイトなどで店舗物件の情報収集をする方も多いかと思いますが、『居抜き』と呼ばれる物件情報を見たことがありませんか?
これは、前の借主(現在も営業中の場合もあります)の店舗の内装、備品、厨房機器、配管等が丸ごと(あるいは一部)残っている物件のことを指します。
不動産物件は、退去時に借主が物件を元の状態に戻す「原状回復義務」があり、店舗やオフィス物件の場合、内装や備品等を全て取り払って、建物の構造物だけの状態にして退去する必要があります。
構造物だけの物件の状態を「スケルトン(骨組・躯体)」ということから、「スケルトン戻し(回復)」と呼ばれることもあります。
しかしながら、物件の内装を取り払う工事にも費用がかかりますし、厨房機器などの設備の撤去、処分にも費用がかかります。まだ使える機器であれば中古品として売り払うこともできますが、大型の機器の場合、運び出し費用だけで数十万円かかる場合もあります。
退去する借主側の考えとしては、多額の費用をかけてスケルトンに戻して退去するより、今ある内装設備の譲渡費用をいくらかでも払ってもらって、そのまま物件を新しい借主に引き継いでもらうほうが金銭的に得になるケースが多いため、このような居抜き物件が発生するのです。
居抜き物件を借りる最大のメリットは、開業に必要な費用の削減です。
店舗の規模や程度にもよりますが、一から設計をして内装工事し、厨房機器や備品を仕入れた場合、一般には数百万円以上、場合によっては一千万円以上の初期投資が必要となります。
居抜き物件の場合、内装や設備の譲渡費の金額にもよりますが、たいていはこの金額より大幅に安い条件で、体裁の整ったお店を手に入れることができます。
居抜き物件にはデメリットも多いので注意が必要です。
まず当然ながら、現状ある内装と設備が前提となりますので、店舗のデザインやレイアウトに制限があります。
居抜き物件の内装や設備が自分の理想に近ければ良いですが、そうでない場合は、そのまま我慢して使うか、別途費用をかけて改装工事や機器の購入をするしかありません。
そして譲渡される機器や設備が、自分のお店に必要なのかどうか、慎重に検討する必要があります。仮に譲渡された機器が不要で処分することになった場合、前述のように、大型の機器であれば運び出しだけで数十万円の出費になる場合もあります。
譲渡される機器や設備の状態が良いものであるかも注意が必要です。
経年劣化により修理が必要となった場合、機器の種類によっては高額の修理費用が発生する場合もあります。
また、譲渡されるリストにない機器を追加で使いたい場合、物件の電気やガス、排水等の設備によっては、追加の工事をしないと使えないという場合もあります。
これら諸々の処理費用や追加工事の費用まで合わせた場合、スケルトンの物件を借りて一から工事購入した方が安い、というケースもあります。
居抜き物件の内容については慎重に吟味してください。
経営不振が理由で退去した物件の場合、その不振の原因の何割かは、物件の立地や外観、内装にある可能性があります。
そういう居抜き物件に手をいれずそのまま開店した場合、以前の要素を引きずって同様に経営不振となる危険性が高いです。このような場合、大きく外観や内装を変えるなどの対策が必要でしょう。
一番良いのは、物件を内覧する際に、飲食店設計の知識や施工経験のあるデザイナーさんや内装業者さんに立ち会ってもらうことです。事前に交渉が必要ですが、その後の設計や施工を依頼する前提であれば、多くの場合、立ち会ってもらうことが可能でしょう。
特に電気やガス、排水配管といった設備関連に関しては、知識がないと問題点を見落としてしまう危険性が高いので、専門家の意見を聞いてから判断した方がよいでしょう。
物件によっては譲渡される設備の選別や処分などの費用交渉が可能な場合もあります。自分のお店に何が必要で何が不要か、しっかり把握した上で検討をしてください。
条件が良いと思われる居抜き物件であっても、まったく手を入れずにそのままオープンできることはまずありません。
大事な自分のお店の開業ですから、くれぐれも慎重に判断しましょう。